新型コロナウイルスの感染拡大は、患者様の受療行動に大きな影響を与えました。診療所はいま、「新しい受療行動」を踏まえた新常識で経営を行う必要があります。本稿では、前回に引き続き、マーケティングの4PからPrice(価格)とProduct(サービス)の観点で医院経営を整理し、コロナ禍の変化にどう対応すべきか考えてみます。
※ 「4P」とは、1960年にエドモンド・ジェローム・マッカーシーが提唱したもので、4つの「P」(Place、Promotion、Price、Product)を用いて商品やサービスの販売戦略を整理するマーケティングの手法です。
Price(価格)
診療所経営において、これまで「価格」はあまり語られることのないテーマでした。保険診療では診療報酬で点数があらかじめ決まっており、診療所主導での価格のコントロールは難しいと考えられてきたためです。その結果、これまで医業収益(売上)を増やすためには「患者数」を増やすことが大切だとされてきました。診療所向けセミナーでは「増患対策」という言葉をよく聞きますが、「価格UP対策」という言葉を聞かないのがその一例でしょう。
しかしながら、コロナ禍においては患者数が著しく減少していて、とくに小児科や耳鼻咽喉科、都心の企業相手のクリニックは大きく患者数を減らしています。原因としては、コロナ対策が周知されたことで感染症の予防措置が全国的に実施され、結果的に一般の感染症が抑えられていること、およびリモートワークやオンライン商談などの一般化が考えられます。また、コロナへの禁忌感から受診控えや受診頻度の低下なども発生しており、コロナの収束がなかなか見えないいま、この傾向はしばらく続くことが予想されます。
医院における価格UP
こういった背景から、コロナ禍では「価格」、つまり「患者様あたりの平均単価」にもしっかり注目する必要があります。患者数の増加が見込めないいまこそ、「薄利多売」から、「適利適売」への発想転換が必要だと考えます。「適利適売」は私の造語なので聞きなれないと思いますが、クリニックの適正患者数に対して、十分な利益を得られる単価を設定するという考え方です。
これを達成するために、他業界の事例を参考にしてみましょう。医科の隣接領域である歯科では、患者単価をアップさせ適正患者数に近づけるための施策を行ってきました。前者は矯正やインプラント、ホワイトニングといった自費分野の増加で、後者は予約管理システムの導入やリコールなどの徹底です。
これを医科に置き換えると、いきなり自費分野にというのはハードルが高いので、まずは検査の拡充のための「患者説明の充実」から始めてはいかがでしょうか。これまでは多数の患者様の診察に忙殺され、どうしてもスピードに意識が向かい、患者様一人あたりにかけられる時間が限られていました。しかし、患者数が一定になれば、その時間がしっかり取れるようになります。患者様の現在の症状、将来の可能性をしっかり考えて、いま行ったほうがよい検査を提案することで、よりきめ細やかな診療ができ、引いては患者単価もアップすることが可能です。その一方で、必要に応じて少しずつ自費分野も増やしていけば良いと思います。
適正患者数を確保するために
適正患者数の確保については、歯科同様、予約管理やリコールなどをしっかり行う必要があります。ITの進歩(ネットやSNSの普及)によって、予約管理もリコールも便利なシステムが出てきています。患者様へのアプローチが以前と比べ格段に良くなっていますので、この際IT化・自動化を進め、システムに自動的にやらせるスタイルを考えてみてはいかがでしょうか。
Product(サービス)
「サービス」については、「医療行為」と「医療行為以外」に分けて見直すと良いでしょう。
医療行為について
診療所において、医療行為は疾患の発見、診断、治療、適切な専門病院への紹介、などが考えられます。これらについては、一人当たりの診療時間が延びればおのずと充実していくことでしょう。まずは、「急いで患者様を診なければ」という、追い立てられる思いをいったん横に置き、一人ひとり丁寧に診察することを心掛けてもよいと思います。患者数が少ないいまだからこそできるのです。
医療行為以外について
昨今、他業界で成功している多くの企業は、付加サービスを重視しています。最近は「モノ・サービス」を売るのではなく、「体験」を売ると表現されます。診療所において良い体験とは何かを考えたとき、患者様の不満にその答えは隠れています。患者アンケートでつねに不満の上位を占めるのは、「待ち時間」と「説明不足」です。時間の考え方が大きく変わったいまこそ、ここに取り組んでほしいのです。
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、私たちの生活様式を一変させました。これまでの常識が通用しないNew Normal(新常識)が生まれようとしています。診療所においても、従来の常識に沿って考えるのではなく、「新しい受療行動」を踏まえた新常識で経営を行う行動変容が必要になると考えます。