コロナ禍での診療所経営を「4P」で整理する①

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、私たちの生活様式を大きく変化させました。これに伴い、コロナ禍以前には「当たり前」とされていた診療所の経営セオリーが通用しにくくなっています。今回は、コロナ禍が診療所経営に与える影響を正しく理解するために、マーケティングの「4P」を用いて状況を整理してみます。

マーケティングの「4P」とは?

 「4P」とは、1960年にエドモンド・ジェローム・マッカーシーが提唱したもので、4つの「P」(Place、Promotion、Price、Product)を用いて商品やサービスの販売戦略を整理するマーケティングの手法です。コロナ禍での診療所経営という観点で、1つずつ見ていきましょう。

Place(立地)

 診療所経営において、成功のために最も重要なものの1つは「立地」と言われています。そのため、開業する際には診療圏分析を行い、患者様の集まる場所を特定して開業するのが定石とされています。その結果、開業に際して長らく好まれてきたのが、都心部の駅前立地に代表されるような「人が集まるところ」でした。

 しかしながら、このコロナ禍で人々の行動導線が変わってきています。昨今メディアでも報道されているように、在宅勤務が広まり、都心への通勤が大きく減少しました。診療圏分析で用いられている人口動態や受療率は5年前のデータであるため、コロナ禍の現在とは一致しなくなってきています。当たり前のように参考とされてきた、診療圏分析データが効力を失っている可能性があるのです。

「都心部・駅前」から「生活圏」へ

 現在の状況を考えると、患者様の行動範囲が極端に狭くなっていると考えられます。また、感染を恐れて公共交通機関ではなく自家用車での移動が増えているため、郊外型の住宅地に近い場所が好立地になっているといえるでしょう。実際、今回の新型コロナの影響も、住宅地に近接しているほうが早期に回復しているようで、地域住民の生活圏内に立地していることが重要となっています。

 昼間人口が多く、夜間人口が少ないような都心部の立地や、通勤通学の帰りに立ち寄れる駅前立地は、コロナ禍においては相対的に好立地でなくなってきています。しばらくウィズコロナの状況が続くと仮定するならば、開業場所を変えざるを得ない診療所が出てくるかもしれません。

Promotion(プロモーション)

 診療所のプロモーションのあり方も、大きく変わろうとしています。在宅勤務の広がりや公共交通機関での移動控えから、従来型の看板広告はあまり作用しなくなっており、都心部では実際に駅の看板や車内広告の空きが目立つようになっています。一方で、巣ごもりのためにWebサイトを見る機会が増えており、ホームページやSNSの役割がますます大きくなっています。

 マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、「(コロナ禍で)2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」と述べています。私たちが感じている以上に、IT化の波が急激に押し寄せているのです。新型コロナが蔓延する前から、インターネットやスマホの普及により、ホームページが患者様の受療行動に影響する傾向は高まっていましたが、今回のコロナ禍で、この傾向は一気に加速したといえるのではないでしょうか。

患者様の不安を取り除く

 プロモーションにおけるコロナ禍の影響は、患者様への接触媒体だけではありません。新型コロナウイルス感染への不安から、患者様は人が集まる場所への訪問を怖がり、それが受診控えにつながっています。そういった患者様の不安を取り除くことこそが、コロナ禍のプロモーションには求められています。

 多くの医療機関は新型コロナウイルスの感染防止策を真摯に行っています。しかしながら、このような診療所の感染防止策は、患者様にしっかり認知・理解されているでしょうか?たとえば、患者様から「通院して危険はないか」「オンライン診療に対応しているか」といった電話が多くかかっては、受付スタッフがその対応に追われてしまいます。医療機関が保有する情報と、患者様が知り得る情報の差、そして感染の恐怖が「とりあえず電話」というかたちで表出してきます。

 患者様の不安を解消し、適切な受療行動に導くためにも、ホームページやSNSの活用は有効であると考えます。具体的な対策としては、「感染防止策」についての院長先生の考え方や、実際に診療所で行っている消毒や換気、3蜜対策の取り組みをホームページやSNSで発信すれば、患者様がより安心して受診できるのではないでしょうか。

 従来「診療所といえば混雑しているもの」というイメージがつきものでした。こうしたイメージの払拭のためにも、取り組みの一環として予約制やオンライン診療を導入したり、ホームページに「待ち時間」や「待ち人数」などを掲示することが有効です。コロナ禍で患者様が大きな不安に覆われているいま、「安心できる診療所」が求められています。

(次回に続く)

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