改めて、診療所経営の話をしよう(5)- 開業医の共通の悩みである「人材マネジメント」

 

 今回は、多くの開業医の共通の悩みである「人材マネジメント」について考えていきたいと思います。一言で人材マネジメントといっても、採用、面接、モチベーション、人事評価、報酬など、内容は多岐に渡ります。今回は総論的な内容になります。

スマイル眼科の事例

 スマイル眼科は、横浜市青葉区で20年前に開業しました。現在、正社員とパートを合わせて15名の小さな組織です。小さくとも組織なので、組織図を作成して上下関係を明確にしています。理事長(20年)と院長(19年)、事務長(20年)の下に、看護部、検査部、事務部の3つの部門があります。看護師が副事務長(15年)を兼務し、現場を取り仕切ってくれています。

人事の悩み

 開業からの20年を振り返ると、わたしも人事については多くの悩みがありました。人事の悩みを時系列で整理してみると、「開業前」は、募集、採用、給与・条件、労務手続、規定作成などの悩みがありました。小さな組織ですから、労務規定は作っていないクリニックも多いかもしれません。今後のクリニック経営を考えると、早い段階で作っておいた方が良いと思います。次に「開業当初」は、勤怠管理、教育、指示および仕事の渡し方などに悩んでいました。特にスタッフ教育は最初のうちはマニュアルもありませんし、教育制度もありませんから、大変苦労しました。
 開業から3年から5年が経過したころ、「人間関係」という大きな問題が生まれます。この人間関係は、不満やモチベーションの低下につながり、退職者も出てきました。退職者が出るたびに追加募集をするという、その繰り返しであったように感じます。このころは患者数もピークに達し、大変忙しく、疲労も蓄積され、何も考えられないようになっていたのだと思います。実は、少しずつスタッフは不満を募らせており、それが溜まっていって、一気に噴出したというのが実情だと思います。不満のシグナルは出ていたのでしょうが、それに気づけるような状態ではなかったのだと思います。
 5年目から10年くらいは、そのような人間関係に対応しながら、効率化であったり、組織づくりであったりに取り組み、徐々に評価制度や報酬制度、退職金制度を構築していきました。現在のようなしっかりした体制になったのは、ここ3年くらいのことです。

人間関係の対策

 クリニック内の人間関係を良好にするためには、まず人事に対して経営者で管理者である院長自らがしっかりと考えなければなりません。人事の方向性を決める必要があります。また、スタッフと日々のコミュニケ―ションをとることはもちろん、定期的に面談を行うことも大切でしょう。そのような取り組みの中で、クリニックの組織風土や雰囲気が作られて行くのです。また、仕組み化としては、日々の気付きについてスタッフに報告してもらう仕組みである「業務日報」を活用してきました。

クリニック経営における人事の重要性

 クリニックはなかなか無人化が難しく、多くのことが人に依存しています。実際、クリニックの最大のコストは人件費です。しかしながら、人をコストと思うか、投資と思うかは重要な視点です。スタッフの成長を期待することができれば、コストから投資になり、強い組織が構築できるのです。
 また、患者の不満の上位に「スタッフの対応」が上がります。スタッフの対応はクリニックの評判に直結します。人は大きなリスク源となり得るのです。人が事故をもたらし、トラブルを起こし、結果クリニックの評判が左右されるのです。これはクリニックの継続性にも大きく影響します。
 経営者である院長にとって最大の悩みは「人事」です。院長のストレス源となり、多くの先生方が苦しんでいることでしょう。人事で悩んでいない先生はほぼいないのではないでしょうか。

 このような人の問題を式で表しますと、「収益=人の数×効率×やる気×スキル」となります。いくら人数がいても、効率が良くても、スキルがあっても、やる気が低下していれば大きな収益減となります。やる気を高める、いわゆる人のモチベーションがクリニック経営に大きく影響するのです。

(次回に続く)

 

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