改めて、診療所経営の話をしよう(2)

経営上見るべき数字とは?

クリニックの院長が経営を把握するために見るべき数字とは、どのようなものがあるのだろうか。

例えば、ある1日の実際のデータを基に解説してみよう。まず、人員配置は医師1名、スタッフ7名。「1日当たり患者数」は91人で、前年同月同曜日に比べて3人多く、予測に比べて2人少ないという結果だった。また、「診療報酬の総額」が58万3,000円、「患者1人当たり平均単価」が6,388円、「平均滞在時間」が41分、「業務の効率(スタッフ一人当たりの患者数)」が13.1人。これらのデータも患者数と同様に、前年同月同曜日と予測値と比較を行っている。その他、スタッフが当番制で毎日コメントを書いてもらっている。このコメントはその日の担当スタッフが1日を振り返り、印象や反省点などを日報のように記録するものだ。

これらのデータは毎日スマホに送られ、日々これらの数値を見て、クリニックの経営状況を把握している。特にこれらの値について、「前年同月同曜日」と比較して把握するとともに、過去のデータに基づき導き出された「予測値」とも比較を行うことで、肌感覚で数字を理解することができる。

結果に至るプロセスを把握する

これら「結果情報」を毎日見るのも大切だが、「プロセスの情報」を見ることも大切だ。もし、平均単価が下がっていたら、なぜ低下しているのか。それが初診が減っているからなのか。初診が少なければ、それだけで単価は下がるからだ。さらには診療報酬点数の詳しい内容まで確認を行っている。具体的には、診療報酬点数については、単価に影響する上位10項目を昨年と比較を行っており、その中で過去のトレンドに比べて減少している項目があるかというところを重点に確認している。

また、患者数に変動がみられる場合は、何らかの原因があるはずである。その解明のためには、患者が何を見て来院したのかを調べる「来院媒体調査(来院のきっかっけ)」の値を確認する必要がある。このデータは、問診などから把握するのだが、ホームページを見てきたのか、口コミで来たのか、看板を見てきたのかなどの数値を集計して作られている。その中で、口コミによる来院が減っているのであれば、さらに掘り下げて「来院満足度調査」の結果を見て内容を分析する。満足度調査の結果、対応面に問題があるのか、待ち時間に問題があるのか、診療の質に問題があるのかなどがわかってくる。

結果を見て、異変に気付けば、それに影響をもたらすであろう要素を掘り下げて分析していく。流れとしては、まずは大枠を「結果情報」で捉え、その変化に起因する詳細な問題を、それに紐づく「プロセス情報」を基に分析していく。この原因結果の関係で、情報を把握することで、経営データを業務改善に活用することが可能となるのだ。

経営データがなければ、戦略戦術の実行は難しい

クリニック経営を行う上で、経営者である院長が考える戦略、戦術を裏付けるためには、必ず経営データがなければならない。データがなければ、戦略・戦術についての「仮説」も立てられず、「効果測定」も難しいだろう。この経営上参考になるデータが自動的に毎日作りだされることが重要なのだ。経営データを作ることに時間をかけずに済むことで、すぐに実行に移すことが可能になる。現在のコロナ禍のように、日々状況が目まぐるしく変わる中、この経営データを毎日しっかり見ながら管理していくということは、クリニック経営にとって大変重要なことと言えるだろう。

経営データをどうやって集めるか

経営データは、電子カルテやレセコン、そして問診データなどから収集が可能だ。しかしながら、それらのデータをいざ分析しようとすると、レセコン等からCSVなどのデータ形式で抽出し、エクセルなどの表計算ソフトで分析を行うという作業が必要となる。まして、紙で収集している場合は、それを一からエクセルに打ち込むが必要であり、大変手間がかかる作業であろう。データは集めることが目的ではなく、データを活用できる形に変形して初めて経営に生かすことが可能となる。

例えば、「問診」からデータを集める場合を考えてみよう。問診では、一般的に患者の基礎情報、患者の症状、患者の病歴、患者のニーズ、来院経路(媒体)などが取得可能である。紙の問診票でもデータ収集はできるが、手書き情報をエクセルに打ち直すという膨大な作業が必要となる。そこで、Web問診を導入すると、初めからデータ形式で簡単に収集が可能となる。そうすることで、データを時系列でみたり、クロス集計をしたりすることができる。これは問診をシステム化することのひとつのメリットと言えるだろう。

データはクリニックの財産であることをスタッフに説明しよう

データはクリニックの財産と考えて、集計分析を行っていく必要がある。例えば、広告宣伝の費用対効果を調べるためには、問診から取られた来院経路を分析することが必要になる。このデータ分析によって、何を見て患者が来ているのかがわかるようになり、「どこに広告宣伝の費用をかけるべきか」という費用の再配分の検討を随時行うことが可能となる。

データのありかがわかっているだけでは不十分であり、それを経営に生かすためには、日々自動的に集計し簡単に分析できる体制、ツールが必要になると考える。また、一番大切なのは「使うこと」である。データを使うことを目的にしているからこそ、集計へのモチベーションが高まるのだ。経営者は集計を担当するスタッフに対して、「いかにデータを集め分析することが大切なのか」をしっかり説明し、情報共有を行う必要があるのだ。そうすることで、スタッフをクリニック経営に巻き込むことが可能になるのだ。

(次回に続く)

 

 

 

 

 

(Visited 544 times, 1 visits today)
タイトルとURLをコピーしました