近年、医療IT業界に新規参入する企業が非常に増えています。その背景として、タッチパネルを備えたモバイルデバイス(スマホ・タブレット)の浸透、および場所や時間を選ばず大量のデータに瞬時にアクセスできるクラウドコンピューティングの普及があります。そこで今回は、医療における最新のIT導入トレンドを、現場のニーズを交えてご紹介します。
クラウドとタブレットの普及が医療IT参入を後押し
2010年、診療録(カルテ)などの保存場所に関する法律が改正され、医療分野でクラウドコンピューティングの技術が解禁になりました。また、患者や医療スタッフの側もスマホやタブレットなどタッチパネルを備えたモバイルデバイスに日常的に触れるようになり、医療現場においてもITを用いた利便性のより高いサービスが求められるようになってきました。とくにApple社の「iPad」をはじめとするタブレット端末が普及している現状を受けて、業務にも積極的にタブレットやPCを利用しようという動き(ニーズ)が出てきています。
患者と医療機関をつなぐニーズ
患者と医療機関の最初の接点として、誰もが思い浮かべるのは「問診票」ではないでしょうか。患者が何を目的として医療機関に来たのか、患者の病状はどのようなものなのか、アレルギーや既往歴(病歴)はないかどうかなど、患者自らが症状を申告するのが問診票の役割です。医療機関はこれらの情報をもとに、さらにヒアリング(予診)や検査を行い、病気の原因を探っていきます。この問診票の仕組みをデジタル化したのが「問診票アプリ」です。
また、患者がどのようなルート(Webサイト、駅看板、口コミなど)を介して来院に至ったのか分析する試みも、医療機関で広く導入が進んでいます。これは通常、問診票や医療機関のWebサイトからアンケートを取る仕組みなどを活用して実現しています。今後は患者満足度調査などを積極的に利用する動きも出てくることでしょう。
さらには、血圧計や歩数計など来院患者が自宅で入力した情報を医療機関で活用したいというニーズもあります。この分野は「PHR(Personal Health Record)」と呼ばれ、今後、IoT(Internet of Things)の普及とともに発展していく可能性が大いにあります。最近ではオンライン診療システムに搭載されるケースも出てきています。
「患者とのコミュニケーションを活発にし、患者からの信頼を高めていく試み」が今後ますます重要になることから、患者と医療機関をつなぐニーズが大きくなっています。
多医療機関、多職種間の情報連携ニーズ
2018年(平成30年)度の診療報酬改定でも明確に打ち出されているように、日本の医療提供体制は「地域包括ケアシステム」の完成を目指して舵が切られています。地域包括ケアとは、地域全体を1つの大きな病院に見立て、地域の医療機関が相互に連携して地域住民への医療サービスや介護サービスを提供する仕組みです。
この考え方の下では、連携(ネットワーク)が重要になってきます。こうした方向性を受けて、在宅医療分野での多職種間の連携、地域医療では地域内での医療機関同士の連携が活発化しています。
この連携の仕組みにおいては、ICT技術が大いに活用できると考えられます。すでにさまざまな企業が関連サービスを開始しています。これら連携システムの導入においては、以下の3点を最低限押さえることが大切です。
- 誰もが簡単に、リテラシーや費用にとらわれず利用できること
- セキュリティが十分に配慮されていること
- 既存システムとの連携が容易であること
とくに1の「誰もが簡単に利用できる」という考え方は、既存のSNSの発想で進められていくことでしょう。
医療機関経営におけるデータ管理・分析ニーズ
医療分野の開発トレンドの1つに「データマイニング」が挙げられます。データマイニングとは、統計やパターン認識、AI(人工知能)など、データ解析の技法を大量のデータに適用することです。電子カルテなどに保存されているデータをマイニングすることで、新たなイノベーションが生まれることが注目されています。
医療分野におけるデータマイニングの代表例としては、DPC(診断群分類包括評価)制度で収集するデータのマイニングを挙げることができます。DPCデータマイニングの活用は大規模病院が先行していますが、今後は中小病院やクリニックなどでも活用することが予想されます。既存の電子カルテの情報をうまく引き出し、分析、加工できるデータマイニングシステムは、今後の注目分野です。導入する医療機関では、リアルタイムに経営指標やアウトカムデータが作り出せるようになることを期待しているようです。