近年、医療機関の経営が年々難しく、そして複雑になってきている中で、臨床医が理想とする診療を実現し継続的に発展させるには、医療レベルの向上と同時に経営・管理力も両車輪のように意識しなければならなくなってきているのではないでしょうか。
私自身、スマイル眼科(横浜市青葉区青葉台)の経営を通じて試行錯誤する中で、様々な施策を行なってきました。その中で、最も重要かつ基本となっているのが、業務日報による経営の「見える化」です。
そこで本稿では、私がスマイル眼科を経営する中で15年間記録し続け、経営上大きな役割を果たしてきた「業務日報」で蓄積されるデータのうち、先日こちらの記事でもお伝えした「経営の大原則」を示す方程式(患者数×診療報酬平均単価−コスト=利益)の「患者数」に関するデータを読み解く際のポイントについて整理したいと思います。
なぜ業務日報がクリニック経営に重要なのか?
具体的に患者数に関するデータを読み解く際のポイントについてお伝えする前に、業務日報によるデータの蓄積と、蓄積されたデータの見える化が重要な理由について、簡単に整理しておきたいと思います。
一言で申しますと、「経営の大原則」の方程式により得られる「結果」がどのようにして生まれたのか、つまり、「プロセス」に存在する原因や背景を読み解くためです。
たとえば、近年のICTの進化により、口コミの伝達スピードが格段に上がったほか、患者来院のきっかけとなった媒体(ホームページ、看板、口コミ等)にも変化が生じています。しかし、そうした変化を漠然と感じているだけでは、効果的な手を打つことはできません。
また、マーケティング戦略を立てても仮説や方針が誤っている場合も多々ありますし、時代は常に変化しますから、見直しと試行錯誤が必要です。
そこで重要になるのが、そうした誤りや変化をいち早く把握するためのモニタリングであり、それを可能にするのが業務日報です。
業務日報のデータを通じて、
- 日々の患者数や診療報酬額、患者の滞在時間や来院媒体(後述)、業務効率等の数値を前年同月、または、予測値と比較した時に大きなブレが出ていないか
- 経営やマーケティングの方針・施策と、実際のデータに乖離がないか
等、クリニック経営を行う上で重要な指標を継続的にウオッチしていきます。
日々の業務日報で、そうした指標の変化を追うことにより、最終的な結果としての「医業収益」を左右した、様々な要因について的確に捉え、経営改善のいわばPDCAサイクル(Plan(計画)/Do(実行)/Check(分析)/Act(改善)のサイクル)を効果的に回すことが可能になります。
蓄積した業務日報データから、「患者数」について読み解く際のポイント
では早速、「患者数」に関するデータについて見ていきましょう。ここでは、「患者」を大きく2つのタイプに区別して捉えていきます。「新規患者」と「再来(既存)患者」です。
「新規患者数データ」を読み解く際のポイント
新規患者数についてモニタリングする際、私が特に参考にしているのは、下記の指標です。
- 来院媒体(来院のきっかけとなった媒体)の割合
- 来院媒体の前年同月比の実績
レセコンでは、「初診」と「再診」を区別してデータを集計することはできても、「新規」「再来」はデータとして管理していないメーカーや機種がほとんどです。そこで、スマイル眼科では受付スタッフが毎日新規患者数をカウントして集計し、業務日報に入力しています。また、問診票を用い、すべての新規患者に来院のきっかけとなった媒体(来院媒体、または、来院経路とも言います)について選択、ご記入いただき、データを蓄積しています。
(スマイル眼科、2016年6月の来院媒体)
上図は、2016年6月におけるスマイル眼科の来院媒体調査の結果です。およそ40%がホームページ経由で、およそ35%が口コミ、その後看板や他院紹介が続いています。
こうした数値をチェックする際に抑えたいのは、「イメージしたマーケティング施策と実際の媒体別来院数が一致しているかどうか」です。スマイル眼科の場合、ターゲットをインターネットリテラシーの高い社会人や学生の層をメインとしているので、ホームページからの来院が多いのはマーケティング施策とマッチしていると考えられます。
また、前年のデータと見比べることで、割合や実数の変化から競合クリニックの影響や媒体ごとの効果の変化を追っていくことも重要です。
スマイル眼科では、業務日報のデータからタウンページが費用対効果として合わないことが判明したため、タウンページへの出稿を取りやめました。これにより、年間約100万円の広告費が削減されたため、その一部でホームページのリニューアルとSEOの強化を行いました。
「再来患者数データ」のチェックポイント
一方、クリニック経営を安定的に継続していく上で大変重要なのが、再来患者数です。私自身が再来患者数を見る上で重視しているのは、「再受診率(リピート率)」です。再受診率を向上させることは、コストと効果、いずれの面から考えても、クリニック経営に大きなインパクトを与えます。
再受診率は、基本的に、患者のアドヒアランスが高く保たれている場合、また、クリニックの診療に対する満足度が高い場合に高く推移します。加えて、患者が受診したいと思った時に受診できる「アクセス」を確保できているかどうかも大きな影響を与えると考えられますので、実際の再受診率を見ながら必要と思われる施策を検討していきます。
(スマイル眼科、2009-2014年の同月再受診平均回数)
上図は、少し前のものになりますがスマイル眼科の実際のデータです。
スマイル眼科では、こちらの記事でもご紹介したような再受診率向上のための様々な施策を行なってきました。2010年には「次回受診目安票」を導入しアドヒアランスの向上を促し、その後、アクセス改善の施策として「予約システム」を導入しました。
新規対策×再来対策で、患者数を維持、向上させる
(スマイル眼科、2001-2014年の月間平均患者数)
上図はスマイル眼科におけるデータの推移ですが、2009-2011年は、近隣で同診療科の医院が新規開業した等の影響もあり患者数が減少、その後、本稿でご紹介してきたような様々な対策を実施しました。以降、継続してデータを収集、改善を行った結果、2013−2014年には患者数の増加が認められました。
1日5分、日々の日報の蓄積が経営数値の資産に
ここまで見てきたとおり、蓄積されたデータは経営の重要な資産になります。これらのデータは、課題の発見と施策の効果測定において重要な役割を果たします。
しかし、忙しい日々の診療の合間にこうしたデータを集め、分析するのは、難しいのが現実かもしれません。
スマイル眼科では、株式会社メディ・ウェブが提供しているBeeコンパスを用い、毎日の診療後に受付スタッフが3-5分程度で入力しています(Beeコンパスができる以前は、エクセルを活用していました)。
ぜひ先生方にも業務日報をお試しいただき、データの力でクリニックの経営基盤の強化に繋げていただければと思います。
次稿は、「診療報酬平均単価」と「コスト」について、ご説明させていただきます。