一般的に、企業の経営状態を健全に保つうえで、客観的な指標をもとに定期的なチェックと改善を行うことが重要なのは、言うまでもないでしょう。一方で、「クリニック経営」となると、医師と経営者という二足のわらじを履く院長先生にとっては、そう一筋縄ではいかないのも事実です。押し寄せる患者と日々の治療に忙殺され、専門外の経営に煩わされ頭を悩ませているドクターも多いのではないでしょうか?そこで本稿では、2回に分けて患者満足度調査によるクリニック経営の見える化と、定期的な改善活動を行うための具体的事例をご紹介します。
クリニック経営における悩みや課題
以前に筆者らが、医院経営者向けに「医院の悩みや課題」についてアンケートを実施したところ、以下のような回答が寄せられました。
ご覧のように、上位の3つは「待ち時間が長い、波がある(87%)」「患者数の伸び悩み、減少(67%)」「人手不足、職員確保(60%)」です。このうち第一位の「待ち時間が長い、波がある(87%)」は、予約制や順番管理システムの導入で緩和できますが、そのほかの2つにはどう対処できるでしょうか?この問いに対する答として筆者が経営するスマイル眼科クリニックで実践しているのが、患者満足度調査です。
「患者数の伸び悩み、減少(67%)」を解決するためには、患者様に良い医療を提供するのはもちろんのことです。しかし、いくら高い技術力をもっていても、患者様の不安を取り除き、納得いただける治療ができなければ、トータルでの満足度が上がらず、リピート率の向上や口コミによる新規患者様の獲得につながりません。また、「人手不足、職員確保(60%)」を解消するためには、優秀な職員の離職を防ぎ、働きやすい職場環境を構築する必要があります。
診察時間中、基本的に医師は診察室にこもって診察に集中する必要があり、受付や待合室、およびクリニック全体のことを見渡すことが難しくなります。診察室の外で目に見えにくい問題が潜んでいた場合、どうすればそれを早期に発見し、顕在化する前に対策できるでしょうか?そういった「隠れたリスクを見える化」するのに患者満足度調査は役立ちます。
患者満足度調査による「隠れたリスクの見える化」
患者様の満足(PS:Patient Satisfaction)を向上するためには、問題点を見える化し、継続的な改善のアクションを実行する必要があります。このための手段として有効なのが、患者満足度調査による客観的指標の導入です。患者様がどの程度クリニックでの診療に満足されているのか、不満を持たれているとしたらどういった部分かを把握できるよう、計測と記録を行うためのアンケート調査を実施します。
このアンケート調査では、集計後に統計的処理を行えるよう、数値評価を基本とするのがよいですが、個別・具体的な不満点を改善できるよう、自由記入欄もあわせて設けることが重要です。また、患者様と医療スタッフの大きな負担にならず、無理なく継続できるようにして、経時的な変化を追跡できるようにすれば、経営指標として、あるいは職員にとっての毎月の達成目標として、継続的な業務改善に活かせます。
アンケートに関しては、このほかにも以下の点を守って項目を設定し、運用するのが良いでしょう。
- 質問文は、できるだけわかりやすく、答えやすいように
- 答えやすい質問から始め、質問間のつながりがスムーズになるように
- 定量化でき、再現性があり、経時的な変化を比較でき、かつ簡便であること
- 患者様が本音を言いやすいよう、回答中および回収時はスタッフが調査票の内容を極力見ないように
スマイル眼科における実践例
筆者は、2001年のスマイル眼科開院当初から継続的に患者満足度調査を行ってきました。質問内容は、①接遇に対する評価(a.受付、b.医師、c.医師以外の医療職)、②技術面及び説明の分かりやすさの評価(a.医師、b.医師以外の医療職)、③待ち時間に関する評価、④総合評価、⑤自由記載欄の5項目です。質問①から④までは、「非常に満足・かなり満足・どちらともいえない・やや不満・かなり不満」といった5つの選択肢から選ぶ方式で、これにより満足度を数値化して統計・集計処理できるようにしました。
アンケートは、たとえば4月は第1週、5月は第2週とスライドさせる形で実施する週を決め、毎月1週間、できるだけ多くの患者様にご協力いただく方向で、会計待ちの際に調査を実施しています。また、当初は紙ベースでアンケート票を作成していましたが、入力や集計の効率化のため、現在は3BeesのBee患者満足度調査に移行しています。Bee患者満足度調査は、iPadやAndroidのタブレット端末からアンケートに回答できるアプリで、お子様からご高齢の方まで、簡単な操作で入力できるようになっています。
今回は、クリニック経営における「隠れたリスクの見える化」をテーマに、患者満足度調査の具体的方法をご説明しました。後編となる次回では、今回ご紹介した方法を用いて実際に集計された調査結果とデータの活用方法について、引き続き事例をもとにご説明します。