政府が進める「働き方改革」は、主に労働環境の改善を目的とした施策で構成されています。一方、医療の現場でそれを実現するためには、自ずと生産性の向上に取り組む必要があります。そこで今回は、医療における生産性向上について考えてみます。
「働き方改革関連法案」では、残業の上限設定、有休の消化、勤務間インターバルなど、主に労働環境の改善を現場に求めています。しかしながら医療の現場では、残業発生も有休未消化もスタッフが好き好んで行っているわけではありません。誰もが早く帰りたいはずです。
原因は様々ありますが、患者が多かったり、レセプト請求事務が業務時間内に行えなかったりと、仕事が通常業務時間からはみ出てしまうことで、残業が増え有休が取れない状況になっているのではないでしょうか。
医療の現場で働き方改革を進めるためには、いくら患者が多くても、いくらレセプト請求業務が多くても、一定の時間内で業務を完了させなければなりません。いまこそ現場のワークフローを見直し、効率を高め、生産性向上に取り組む必要があるのです。
生産性向上とは何か
生産性向上とは、インプット(コスト)を減らし、アウトプット(売上)を増やすことです。「売上最大、経費最小」が利益を最大化すると喝破したのは、京セラやKDDIの創業者として有名な稲盛和夫氏です。その言葉に従うなら、経営において生産性向上は、働き方改革がなくとも取り組まなくてはならない課題といえるでしょう。
医療現場で最も大きなコストは人件費です。そのため、「どうすれば残業や休日出勤がなくても業務が回るようになるか」を考えることが大切です。一方で、売上は「患者数」に「患者一人当たり単価」を掛けたものですから、患者数を減らすことはできませんし、応招義務がある医療の現場において、来院した患者を断ることは基本的にできません。今の患者数のまま、サービスレベルを下げないで、業務を時間内に回す方法を考えなくてはならないのです。
生産性向上のためのシステム活用
現場の生産性を高める方法として、システムの活用が注目されています。本来、ヒトが行ってきた業務をコンピュータにやらせることにより、効率化を図ろうとする試みです。しかしながら、業務をコンピュータに置き換えるだけですべてが解決するかといえば、そんなに簡単な問題ではありません。システム化する前に必ずやってほしいのは業務の標準化です。
今の業務をそのままコンピュータにやらせると、少なからず不具合が生じ、カスタマイズが必要となります。カスタマイズは導入コストの上昇をもたらすのでお勧めできません。カスタマイズを最小限に抑えるためには、「誰がやっても同じになるよう」業務を標準化することが大切です。
標準化のための業務マニュアルの作り方
標準化を進めるには、手本となるスタッフの業務を観察・分析し、その業務を言語化していく必要があります。これをまとめたものがいわゆる「業務マニュアル」となります。
しかし、マニュアル作成を現場のスタッフにお願いしても、「忙しすぎてマニュアルを作成する時間が取れない」と返事が来て、なかなか業務マニュアルの完成に至らないケースが多いのが実情です。
業務マニュアルは絶対に先輩が作らなければいけないわけではありませんし、文書である必要もありません。最近はスマホやパソコンを使えば動画が簡単に作れますし、若い人は動画で学ぶスタイルにも慣れているので、新人スタッフが先輩スタッフの業務を動画撮影して編集すれば良いのです。
この動画マニュアルを整備することで、先輩による新人教育業務を著しく減らすことが可能です。ただし、動画マニュアルはあくまで学習用であり、毎回毎回動画を見ながら作業をするわけにはいきません。動画の内容に基づいてチェックリストを作成しておくことをお勧めします。チェックリストについても、簡単にチェックリストを作成できるアプリなどがありますので、それを活用すると良いでしょう。
業務マニュアルの効果
業務マニュアルを整備することで、特定のベテランスタッフへの業務集中がなくなります(タスクシフティング効果)。また、先輩が後輩にOJT(業務時間内のトレーニング)で教える時間も減少します。結果として、新人が自ら業務を学習できるようになります。医療の現場でよく見られる特定スタッフへの業務集中と、教える時間の減少が実現します。業務を標準化し、それをスタッフ全体に広めるという作業そのものが生産性向上に寄与するのです。
診療所の事務スタッフの業務を例に考えると、こういった取り組みは「受付業務」「予約業務」「会計業務」「レセプト業務」などに効果があると考えます。そのほかにも最近は、患者さんへの説明に動画を活用するクリニックも増えてきています。こういった様々な取り組みを行うことで、スタッフの業務時間の低減につながります。