診療所経営の根幹は「患者様をどう集めるか」「患者様にどう満足していただくか」、そして「スタッフが活き活きと働ける環境をどう作るか」にあります。そのためには、マーケティングとマネージメントを考えることが大切です。
マーケティングとは何か?
経営学者フィリップ・コトラーは、「マーケティングとは、個人や集団が製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズや欲求を満たす社会的・経営的プロセス」と定義しています。コトラーは企業と顧客の間で、商品やサービスを通して価値を交換するためのコミュニケーション活動全体であるとしているのです。
Promotion(販促活動)が重要な時代に
マーケティングでは、Price(価格)、Place(場所)、Product(商品・サービス)、Promotion(販促活動)の4Pと呼ばれる考え方が広く知られています。これを診療所経営に置き換えると、Priceは「患者単価」、Placeは「立地」、Productは「医療サービス」、Promotionは「広告・広報活動」となります。
医療機関が不足していた時代、診療報酬改定率も右肩上がりであったため、「立地(Place)さえよければ上手く行く」と言われていました。しかしながら、現在のように地域内での競合が激化し、診療報酬改定率も横ばいないしは低下している状況では、販促活動が重視される時代となっています。診療所では販促活動を「集患」や「増患」と呼び、現在経営における最重事項の一つとなっています。
ホームページで認知いただき、さらにサービス内容を伝える
ネットやスマホの普及により、何でもネットで検索する時代となりました。当然、診療所の販促活動もネット重視となっています。いかにネット上で診療所を認知させるかが、集患で最も重視する点となり、診療所でもSEO対策(検索エンジンで上位に表示させる対策)が行われるようになりました。
ホームページで患者様に診療所を認知いただくのはもちろんのこと、さらにサービス内容を適切に伝えることができなければ受診にはいたりません。そのためには、診療時間や休診日、地図といった基本情報のほかに、医師の専門領域(得意分野)や医療機器(レントゲン、CT、内視鏡、エコー)などの設備等を掲載する必要があります。最近では、診療所の考え方を伝えるために、「理念」や「クレド」を掲載する診療所も増えてきました。
また、忙しい現代人は待ち時間を嫌う傾向にあり、レストランやホテル、電車、飛行機なども予約して訪問するのが当り前になりました。診療所でもこの傾向が確実に訪れており、ホームページから患者様が直接予約や順番を取れるシステムを導入する診療所が増えています。
患者数をマネージメントする時代
患者様が増えてくると、診療所には新たな悩みが発生します。それは「待ち時間」です。診療所にとって、1日に診療できる患者数の上限は決まっています。上限を超えて患者様が来院された場合、待ち時間は増加し、診療がどんどん遅れ、診療時間を超えて診療することになります。
理想を言えば、毎日同じ人数の患者様に来院いただければいいのですが、そういうわけにはいきません。その対策として、診療所のホームページ上に待ち人数を表示したり、順番が近づくと連絡したりするシステムを取り入れることで、患者集中を分散させる(平準化させる)仕組みの導入が始まっています。これらの患者様を平準化する取り組みを、患者マネージメントと呼ぶこともあります。
マネージメントとはオペレーションの効率化
マネージメントは、一般的に「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を管理することが主たる役割です。そのうち、診療所にとっては「ヒトのマネージメント」が重要です。「ヒト」とは先に挙げた患者様とスタッフになります。患者マネージメントは、1日に診療できる上限の患者数にいかに近づけるかということで、スタッフマネージメントは、1日の診療に必要な人員を最適な配置にいかに近づけるかということになります。
この「最適な人員配置」は、診療所の状況によって大きく異なります。来院患者数やシステム、設備、診察室数、スタッフの熟練度によって差が出てくるためです。これらを十分に理解して、適切な人員配置を行うことは、診療所のオペレーションをいかに効率化するかという問題となります。
タスクシフティングとロボットの活用
診療所において、人件費は5割~6割を占めているため、コスト割合から考えると、人件費をいかに抑えるかが大切となります。人件費は、医師、看護師、コメディカル、医療事務の順に高く、最近ではこれにロボットが加わろうとしています。
昨今の働き方改革の影響で、最もコストが高い医師の業務を医療事務に移す「タスクシフト」や、医療事務の業務を「ロボットに代行させる(RPA)」ことが始まっています。人件費を抑え、医師を診療に専念させるタスクシフティングは、スタッフマネージメントの適切な流れと言えるでしょう。