本シリーズではこれまで4回に渡り、働き方改革の概要と医療領域での考え方、医師の勤務時間の実態、医師の「働き方」の実際、および今後の「医師の働き方改革」の方向性についてご紹介してきました。
一方で、今年に入り医療機関が労働基準監督署等から相次いで指導を受けており(※1、2)、医師の労働環境改善対策は、まさに待ったなしとなっています。そこで、本稿では特に今年4月に行われた診療報酬改定にスポットを当て、具体的な対策の方向性についてご紹介していきます。
※1 長時間労働:勤務医に上限超える残業 広島市民病院に是正勧告 中央労基署 /広島 – 毎日新聞
※2 愛媛県立4病院:超過勤務、勤務医の8割 – 毎日新聞
昨年12月に示された「平成30年度診療報酬改定の基本方針」には、「医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進」を基本方針の一つとして、下記のように「基本的視点」が定められています。
“医療従事者の厳しい勤務環境が指摘されている中、医療の安全の確保や地域医療の確保にも留意しつつ、医療従事者の負担の軽減を図り、あわせて、各々の専門性を発揮でき、柔軟な働き方ができるよう、環境の整備、働き方改革を推進することが必要である。”
また、具体的方向性の例として、
- チーム医療の推進(業務の共同化、移管等)等の勤務環境の改善
- 業務の効率化・合理化
- ICT等の将来の医療を担う新たな技術の着実な導入
- 地域包括ケアシステム構築のための多職種連携による取組の強化
- 外来医療の機能分化
があげられています。
これを受け、2018年4月の診療報酬改定では「医療従事者の負担軽減、 働き方改革の推進」が4つの柱のうちの1つに設定され(図1)、
- チーム医療等の推進等の勤務環境の改善(図2)
- 事務の効率化・合理化や情報利活用の推進
がその具体的な内容として取り上げられました。
図1 平成30年度診療報酬改定の概要
出典:平成30年度診療報酬改定の概要(厚生労働省 平成30年3月)
図2 チーム医療等の推進等の勤務環境の改善
出典:平成30年度診療報酬改定の概要(厚生労働省 平成30年3月)
こうした改定を受け、具体的には医療クラークの利活用をはじめとした医師同士のタスクシェアと多職種間でのタスクシフトや、ICTの活用による画像診断や病理診断、カンファレンス等におけるリモートワークの促進、また、「複数主治医制」や「短時間正規雇用医師の活用」、「院内保育所の設置」などが促進されることが期待されています。
したがって、医療クラーク、看護師や検査技師、薬剤師等コメディカルワーカーに適切かつ効果的にタスク移譲を行うことや、場所に囚われない働き方を積極的に取り入れることが、医療機関にとって模索すべき方向性となってきそうです。
特にタスクシェアに関しては、第三回でもご紹介した通り、例えば医療事務の3割は医師がやる必要はないと医師自身が認識しており、改善の余地が比較的大きいことが見込まれます。
一方で、「働き方改革」を目的化させることなく、医師や医療従事者が心身の健康を保ちながらやりがいを持って働ける環境をどのように整備し、限られたリソースをどのように活用しながら医療の質や量をどのように維持、提供していくのか。36協定のあり方も含め、今後はより本質的、かつステークホルダーを横断した議論を重ねつつ実践していくことが期待されています。